ぬぐうだけじゃない。“飾る”手ぬぐいで鯉のぼりを味わう

1.はじめに

わたしは、愛知県岩倉市で観光まちづくり事業を企画・運営する「NPO法人いわくら観光振興会」で働いています。
岩倉市は、愛知県の北西部、西尾張と呼ばれる地区にあり、市のほぼ中心を流れる五条川は「日本のさくら名所100選」に選ばれた桜の名所です。
岩倉五条川の初春の風物詩といえば「のんぼり洗い」。毎年大寒のころから始まる、鯉のぼりの“のり落とし作業”のことです。今回は、「のんぼり洗い」を手掛けるまちの幟屋さんが代々受け継いできた、昔ながらの技法で染められた鯉のぼりをきっかけに企画したツアー「手ぬぐいツアー」がテーマとなります。このツアーの誕生秘話から、まちの伝統と観光の結びつきについてのお話です。

手ぬぐいツアー」・・・
令和3年4月7日に、岩倉市とNPO法人いわくら観光振興が共催したツアー。正式名称は「手ぬぐいツアー 7代目松浦代助さんがご案内~“ぬぐう”だけじゃない 飾って感じる 伝統の技~」。脈々と受け継がれる伝統工芸の世界を、ツアー観光の定番「染物体験」や「工房見学」という切り口ではなく、老舗の職人さんに直接お話をしていただくことにより、「伝統は家の中でも気軽に親しめる」といった視点から楽しんでいただこうとするもの。

●いわくら観光振興会HP内「手ぬぐいツアー」
https://iwakura-kanko.com/event.php?id=2021_2_26

2.ツアーのヒントは“自分自身 ”

小学2年生の時、わたしは海部郡の佐屋町(現在の愛西市)から岩倉市に引っ越してきました。祖父母の家が岩倉市にあったので、馴染みのあるまちではありましたが、よそから来たという不安は多かれ少なかれあったと思います。
確か小学3、4年生くらいの時、学校の生活科の地域の特色などを学ぶ教科書で初めて「のんぼり洗い」のことを知りました。江戸時代からの歴史があると教えられ、子どもながらに「こんなに昔から続く伝統がこのまちには残っているんだ」と、驚き、憧れ、素敵な伝統の残るまちに越してきたんだ!と、誇りにも思いました。

写真:今も市内の小学校の授業で使用されている「わたしたちのまちいわくら」。

3年前、わたしは待望の子どもを授かりました。女の子でしたので、これで鯉のぼりとは縁が無いのかな・・・と思っていました。
ある日、仕事で訪れた市内の幟店「旗屋中島屋代助商店」で、鯉のぼりのデザインの手ぬぐいが何種類も飾られているのを見かけ、思わず購入して自宅に飾りました。そんな自分の行動を振り返って、
あれ?鯉のぼりって、こんなに身近に感じられるんだ!
と気づけたのです。

この経験から、集合住宅で大きな鯉のぼりを飾れない人、子どもを持たない人、若い人からご年配の方まで、手ぬぐいなら誰でも気軽に季節の行事を楽しめると考えたわたしは、「手ぬぐい」を題材にツアーを企画し、「旗屋中島屋代助商店」の職人さんに話を持ちかけてみることにしました。

写真:旗屋中島屋代助商店の入り口。

3.そこにあったギャップ

「旗屋中島屋代助商店」の職人さんである7代目松浦代助さんは、わたしの憧れの人です。職人気質で、ちょっと近寄りがたいとも思うくらいのまぶしいオーラをまとっています。しかし話してみると笑顔が素敵で、優しく、そして子どもたちの未来を熱く考えていらっしゃる方です。そんな代助さんは、わたしの持ち込んだツアーの内容を見て、率直な疑問をぶつけてくださいました。

「染物体験」も「工房見学」もなくて、僕の話だけ聞きたい人なんているの?

そう、わたしのこのツアーのこだわりは “身近さ”。
「染物体験」や「工房見学」のような非日常体験ではなく、日々の生活に幸せを積み重ねていくような感覚でまちの伝統に触れてほしいと考え、職人さんから日常生活での「手ぬぐい」の楽しみ方をお話いただくことに焦点を当てたのです。代助さんの投げかけに、「いますいます!だってわたしがそうですもん。本物の職人さんに会えるってそれだけで価値があるんですよ。」と話しましたが、なんとも言えない顔をしておりました。

こういう仕事をさせていただいているのですから、いつかは自分の発案で鯉のぼりに関する企画をやりたいとは考えていました。ただ、『岩倉桜まつり』で開催されている「のんぼり洗い」のデモンストレーションはあまりにも有名。鯉のぼりを題材にした観光資源としてすでに確立しているのだから、わたしなんかの出る幕はないのかなとも感じていました。
その一方で、一般の方が事前申し込みで「のんぼり洗い」を実際に行う、まつり期間中の体験については、貴重でうらやましいな~とは思うものの、もしわたしだったら、みんなに見られるのは緊張するし、うまくできるか不安もある。気軽に、というわけにはいかなくて、ちょっとハードルが高いなと感じる人もいる気がしていました。
だからこそ、日常で触れられる手ぬぐいに可能性を感じたし、ましてや職人さんから直接話を聞けることは、その時間を存分に楽しめる、素敵な体験に違いないと思えたのです。

4.参加したお客さんの笑顔で確信に

写真:先導役の振興会スタッフが使用した旗。手ぬぐいのデザインを使用。

ありがたいことに、ツアーの参加者募集についてのプレスリリースを見た地元の新聞社から取材の依頼がありました。実際に取材していただいた記事が新聞に掲載されると申し込みが殺到し、すぐに定員15名様満員御礼に。キャンセル待ちがでるほどの盛況でした。
当日はお天気も味方してくれて、五条川散策がてらの移動中も和気あいあいの、楽しいツアーとなりました。

写真:徒歩で目的地まで移動。まちあるきの楽しさも取り入れた。

参加したお客さんからは「勉強になった」「またやってほしい」「楽しかった」との声を直接たくさん聞くことができて、とても嬉しかったです。

ツアー中、とても印象的だった事を1つあげるのなら、カフェで代助さんが手ぬぐいを手にとりながらお話されていた際の一幕です。“昔は割いて使用した、女性にも簡単にできるよ”と実演で手ぬぐいを割いて見せたとき、参加者さんから「あら!もったいない!」と思わず心の声が漏れたのです。まわりからクスっと笑いもおき、ガイド役の職人さんとお客さんの距離感がグッと近くなった、そんなシーンになりました。

写真:カフェでの様子。みなさん真剣です。

5.まとめ 結びつきはどんなカタチでもいい

今回は都合がつかず、残念ながらツアーに参加出来ないというお客様から、新聞に載っている手ぬぐいを購入したい、ツアーのガイドの職人さんのお店に行ってみたい等の問い合わせが、いわくら観光振興会あてに数多くありました。こういったツアーや報道をきっかけにして、染め物の良さを今より広く認知してもらう足がかりを、自分たちにも作れる可能性があると感じる事ができました。
鯉のぼりの良さを伝える方法って、何も鯉のぼりを使わなくても他にあるんじゃないか。そして、いろんな人々に様々な方法で訴えていく方法は、まだ思いついてないだけなんじゃないか。そんなことを感じさせてくれたのが「手ぬぐいツアー」でした。

まちの伝統と観光の結びつきの方法は、どんなカタチでもいいなと思いました。

写真:タペストリーだけでなく、空き箱を包んでファブリックボードにも。
この記事を書いた人
木村さや香

NPO法人いわくら観光振興会
人事教育長/イベント企画制作
1986年生まれ。岩倉市在住。1児の母。岩倉市PR大使い~わくんのアテンド"鯉のぼり恋子 "としても活動。「観光資源は自分たちでつくることができる」をコンセプトに、市内の農家や商店、消費者をつなぐ企画を提案している。

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